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映画『The Circle』から考える、技術進歩と情報提供

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AIは、結局情報の塊だ。
ここで言っているAIとは、Aの時はB、Cの時はDというプログラムが入った機械のことではなく、その状況で最も確率の高いものを予測できる、「考えるAI」のことだ。

AIは、Aが次に何をするのかを予測する為に、
Aが今まで何をしていたのか、その動きと似たことをした人はいたか、似た動きをした人は次に何をしたのかを調べて、それを元に計算する。
「誰が何をした」というデータが多ければ多いほど学習は進み、より正確な知能が出来上がる。

それなのに。効率よくAIを学習させるには圧倒的にデータが足りない。
個人情報保護やら、情報の利用規制でまとまったデータが手に入らないのだ。

個人情報はそんなに大事か?

個人情報保護が大事なのは分かる。
例えば、ストーカーの犯人にストーカーのターゲットの住所や電話番号を教えるのは、勿論マズい。

でも、例えば購買情報はどうだろう?
「誰が何を買った」という情報が大量にあれば、レコメンドも広告も商品開発も、もっと効率的になることは言うまでもない。
しかし、TカードもSuicaも、大きなデータを持っている企業がそのデータを使って何かしようとすると、必ず袋叩きにされる。元の会員番号や住所を伏せて、個人を特定できないようにしていてもだ。
世間からすると「生身の人間の大切な情報を扱っているという認識が足りない」らしい。

元の会員番号等を伏せた状態で分析したとしても、個人が特定される可能性があることがあるのは確かだ。
人が少ない地域や、あまりない行動パターンだった場合は特に。
でも、だから何だと言うんだろう。
先のストーカーの例で言うなら、ストーカーがターゲットの居場所を割り出せる可能性はあるが、通常はそれ以上のスピードで、ストーカー犯人の居場所を割り出すことができるはずだ。

さらに、全員の情報が平等に公になっていれば、その中の特定個人をしつこく分析したりするだろうか?
あなたが人に言いにくいものを買った経験があるのと同様に、近所の人にも同じ経験があるはずだ。そうでなければモノは売っていない。

結局、個人情報の何がそんなに大切なのか。。。

映画「The Circle」はディストピアか?

The Circleは2017年に公開された、エマ・ワトソンが主演を務める映画だ。

これはfacebookのように実名ベースのSNSを運営している企業、Circleに就職したメイの物語。
Circleではシェアすることはケアすること、秘密はウソだとし、社員同士が何でも公開し合うことを良しとしている。さらに、世界中を小型カメラで誰もが監視できるようにしたり、「透明化」と称して個人の生活を朝起きて夜眠るまで全て公開したりし始める。
さらに、全人類にCircleでのアカウント登録を義務付け、選挙までもCircleのインフラ内で行うという「完全化」を目指す。世界中のアカウント保持者に声をかけることで、犯罪者も簡単に見つかる。
最終的に、CircleのCEOまでも「透明化」する流れとなり、プライバシーの崩壊が進んでいくというストーリー。

さて、先の技術進歩という観点から話すと、この「完全化」が実現すれば、確かに技術は飛躍的に進歩するだろう。容易にデータ収集できるようになる。

では、情報保護という観点ではどうか。「透明化」はプライバシーを崩壊させ、このプライバシー崩壊は主人公メイの心を消耗させていく。
しかし、政治家やCEOが「透明化」を実現させることで”本当の民主主義”が実現するのは事実だろう。
さらに、メイが「透明化」によって消耗しているのは、メイだけが「透明化」し、他の一般市民に一方的に晒されている状態だからだ。これがもし、全員「透明化」状態だったら?果たしてメイだけに注目する人が何人いるだろう。
メイを中傷するコメントを残したとしたら、メイが逆にその人を覗き見ることもできるのだ。マーサを執拗に追い詰めた一般人が昨日何をしたのかを覗き見ることもできる。

さらに、技術発展という観点で言うなら、行動のデータと個人が紐づけられている必要はない。
公開したい人だけがYoutubeでやっているように自分の日常を共有し、そうでない人はデータベース上に記録だけ残して技術発展に貢献する。その人が何らかの犯罪に関わっていた時に初めて、その人のデータが特定個人として調査される。

さて、何がディストピアなのか。

プライバシーとは何か?

プライバシーとは、私事を他人に知られたくないこと。なぜ知られたくないのか。それが悪いことだと分かっているから?
逆に、なぜSNSでの情報公開はどんどん進んでいくのか。知られたいから?承認されたいから?

情報を広く発信することができるようになって初めて、プライバシーという概念が生まれた。
でもこのプライバシーとは結局何なのか。
知られたくない私事に注目する人が、果たして何人いる?

自分のデータは所詮、70億人のデータの一人分しかない。
そのデータによって作られるAIの学習に、ほんの米粒ほど貢献するだけ。
それを秘密にしたい言うのは、少々思い上がりではないだろうか。

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