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【男女脳に違いはある】思考プロセスが違うだけ

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至る所でオススメされていた本、『女の機嫌の直し方』。

一見男性が書いた男性向けの本かと思いきや、著者は女性。
それも脳科学や生物学、解剖学ではなく、人工知能の研究者。女子校・女子大から圧倒的に男性が多い業界に入った女性だった。人工知能、つまり、人間の脳を模したプログラムを作るためには人間の思考プロセスを理解する必要がある。解剖学者より本質的な違いを見出せそうだ。

「脳に性差がある」と言っても、「女性にはこれができない」とか、「男性にこれは無理」みたいな職能としての差を話しているのではない。
そもそも脳の構造が違うので、同じ入力に対して同じ出力を期待するのがおかしい、という意味だ。同じ出力を期待するなら違う入力をすれば良いだけなので、スペックとしての差はない。
ただ、ある出力が得意な脳と苦手な脳はあって、その違いを知っておいた方がお互いにうまく接することができるという。

脳の構造的な性差

女性の脳は、男性より脳梁が太く、右脳と左脳の連携が強い。感覚を司る右脳と、それを顕在意識に持ち込む左脳が連携するので感情に紐付いて様々な体験を記憶できるそうだ。

一方男性脳は右脳と左脳の連携が弱い。男性がぼーっとしているように見えるときは、右脳と左脳の連携を切っている時らしい。感覚と意識を繋げず、左右の脳を別々に動かすことでそれぞれの脳が発達し、空間認知力の向上に繋がるんだとか。

しかし、この脳の差を生み出している性ホルモンは現代の生活ではあまり分泌されない。性ホルモンは夜に眠ること、毎日適度な肉体疲労があることで分泌されるので、スマホの光を浴びて昼夜問わず脳が活性状態の現代では、脳の性差は少なくなっていく。

また、最近の研究結果では男女の脳の差は僅かなもので、個人差の方が大きいという。オネエ系と男性物理学者が同じ脳の構造だとは、確かに思えない。

男女脳の得意分野

女性脳の得意分野は感情記憶、臨機応変力、察する力。
感情記憶は、心の動きを検索キーにして、出来事を記憶する力。これは子育てをするために必要な臨機応変力を培うもので、昔起きたことまであらゆることを記憶しておくことで、子供に何か起きた時に即座に対応方法を導くことができる。
察する力は、女性の右脳と左脳の連携速度が男性よりも速いことに由来する。感じたことがすぐに顕在意識に結びつき、その量があまりにも多いので、「論理的には説明できないけど何となく察する」ことが多々あるらしい。家族が風邪気味だと言う前に風邪薬を買ってくるとか、足りない備品をしっかり認識した訳でもないのに買ってこれるとか、同僚がヘッドハンティングされたのが分かるとか。
「女の勘」は案外当たるんだとか。

一方男性の得意分野は俯瞰する力。物の位置関係や構造を素早く認識することができる。男の子に絵を描かせると、まるで上空から俯瞰したような絵を書くことがあるらしい。自分を主体として周囲を見るのではなく、俯瞰して全体を見るというのは女である私には到底理解できない。
男性脳の特色が強いと、世界や宇宙までも視野に入れて俯瞰しようとするので、自分の周囲に関してはほとんど関心を持たないらしい。男性やガレージや書斎など変化に乏しい環境を好むのは、自分の周囲に意識を払うことができないからだそうだ。

女性はなぜ共感を求めるのか

そもそも、女は子供を産む性。自己保全が一番大事だ。
そのため、「怖い」、「危ない」、「つらい」といったストレス信号に男性の何倍も反応してしまう。そして、それらのストレス反応が起きた原因を何度も思い出すことで、もう一度危険な目にあうことを避けるのだ。
男性にとっては何でもない話を、女性が大げさに話すのはそのためなんだそう。

ポジティブな感情でも同じように大げさに反応する。
感じたことにきちんと反応することで、脳がそれを記憶し、もう一度同じようなポジティブな感情を得るために無意識に働いているらしい。

その上で、女性の会話では「共感」が大事になる。
ネガティブな感情にも、ポジティブな感情にも敏感な女性は、そのうちその感情を発散したくなる。全ての感情を記憶していてもパンクしそうになるのだ。
しかも、ただ記憶しているのではなく、ネガティブな感情を再び感じるのを避け、ポジティブな感情をもう一度感じるために、昔のことでも何度も思い出して復習している。(女が過去の話を蒸し返すのもこの働き)
誰かに自分の中の感情を発散し、それに共感してもらうこと。
共感してもらえることで、守られている安心感を得て、自分の感情を客観視できるようになる。

女性同士の共感だけで成り立っている会話にも実は意味がある。
繰り返しになるが、女性は出産し、子育てする性。昔から「初めて」の体験でも何とかこなす必要があった。男性の狩りは先輩に教えてもらいながら上達させることができるが、女性は教えられながら出産・育児をする訳ではない。
従って、女性には「経験・知見にもとずく臨機応変な対応」が求められてきたのだ。

この経験・知見を蓄積するためにあるのが女性同士の「共感」だらけの会話。
共感する、つまり、話者の感情に共鳴して自分の感情を動かすことで、自分が話者の体験を疑似体験したような感じになるのだ。「共感」しながら会話することで、自分ひとりで経験値を高めるよりずっと多くの経験を疑似体験することができる。

本当に職能はないのか

ここまで読んで気になるのは、この男女の得手不得手こそが女性を家庭に、男性を仕事に掻き立てるのではないかということ。

家電が発達したことで家庭内に力仕事がなくなり、残る家事は女性脳が得意とし、男性脳が苦手とする細々とした備品管理や家族の世話。男性脳にこれをやらせるより女性脳がやった方が早いのなら、「家事は女性がやった方がいいよね」と言う話になってしまう。

筆者が言うには、家事・育児を無理矢理分担しようとする方がおかしいのだと言う。男性脳には別の仕事をさせた方が良いし、育児は人生の喜び。「夫が育児を手伝ってくれない」なんて育児をマイナスに捉えた考え、持つ方がおかしいと。

確かにそうだろう。一人暮らしを始めて数ヶ月の私でも、家で足りない備品と目があったり、やっていない家事タスクに自然と目が合う経験がある。もし本当に男性脳にそれができないなら、家事分担を半分頼むのは非効率な上不平等だ。でも、「女性は家庭内の仕事の方が得意だから、家庭の仕事で忙しくなるでしょ」と本業を減らされることになるなら納得いかない。しかも、女性脳の方がそれが得意というだけで、家庭の仕事も仕事であることには変わりないのだ。

なぜ女性だけが外で働こうとすると家庭内と本業で二重に仕事を負うことになるのか。そのモヤモヤは解決されないまま。論理的な本だとは思いつつ他人にお勧めはできないのは、きっとこの考えを広めたくないから。

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