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17世紀オランダ絵画。市民が購入した写実的絵画を見て思うこと。

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東京都美術館の、フェルメールと17世紀オランダ絵画展に行ってきました。

1648年、オランダは八十年戦争を経てスペインから独立。
それまではスペイン=ハプスブルグ家の領土で、カルヴァン派プロテスタントの地域なのにカトリック信仰を強要されていました。

プロテスタントが指導したオランダでは、徹底的に教会を純化したため、聖書の教えに立ち戻って偶像崇拝を禁止しました。
1400年から1500年代のルネサンスで盛んに描かれていたのは宗教画。
レオナルド・ダヴィンチの最後の晩餐(1498年)も、ミケランジェロの最後の審判(1541年)も、キリスト教に関する絵です。

オランダでは、教会が絵画を発注することはなかったので、絵画の買い手は市民でした。
現代人が写真を額に入れて飾るように、風景画や風俗画、肖像画、静物画を写実的に描かせては、家に飾ったそうです。
まだカメラなんてなかった時代。
画家はピカソのような独特な技法で個性を出すのではなく、写実的に描いたうえで、描く対象によって個性を出していきました。

絵から意味を見出すことも知識人の流行でした。
私が普通に見ているだけでは特に意味なんて見出せませんが、歴史的背景を踏まえた解説が聞ける音声ガイドを購入したので、色んな話を聞けました。

  • 美しく活けられた花に一凛の枯れかけた花を混ぜる→人生の儚さ
    ヤン・デ・ヘーム、『花瓶と果物』
    赤と黄色、白と紫の花弁を持つチューリップは、当時の最高級品種。
  • 仮面を踏みつけたキューピット→欺瞞や悪徳に打ち勝つ誠実な愛
    ヨハネス・フェルメール、『窓辺で手紙を読む女』
    後ろの壁にキューピットが塗りつぶされていました。
  • 口を少し開いて微笑む女性は→恋する乙女
    レンブラント・ファン・レイン、『若きサスキアの肖像』
    (目が笑ってないでしょ、、と思ったのは私だけ?)
  • 鏡を見る→傲慢、虚無
    フランス・ファン・ミーリス『化粧をする若い女』
    開封済みの手紙の横で、鏡を見ながら化粧をする女性の絵だったので、愛する人を思っての化粧だろうとか、女性の虚栄心を戒めているといった解説がありました。

写実的な描き方に、だまし絵の要素を取り込んだ絵も多かったです。
絵の中に窓枠のような、額縁のようなものを描くことで、物が絵から飛び出して見えるのです。
フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』のカーテンも、だまし絵的な、奥行きを錯覚される要素があります。

「トローニー」と呼ばれる、不特定人物の顔を描いた作品も多く展示されていました。
17世紀オランダの絵画の買い手は市民で、発注されてから描き始めるのではなく描き終わったものを売っているので、個人を特定しない人物画の需要があったようです。
フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』もトローニーだろうと言われています。

風景画、風俗画には、動物も多く描かれていました。
風景画のように見えても小さく人間も描かれていたりするので、風景画の区分なのか風俗画の区分なのかは分かりませんね。
オランダには家畜が多かったようで、牛や羊、ヤギなどがいました。
狩りでとった鳥やウサギを売っている絵も多かったです。
室内画でも犬が多かったです。
室内に猫がいるのは不名誉なことらしく、猫が描かれた絵は少なかったです。

個人的に印象に残っているのは、ニシンの絵。
ニシンはオランダの代表的な庶民食です。
ニシンは二日酔いに効くだけではなく、医学的にも効用があるという内容が書かれた石板と共に、干されたニシン2匹と切り身のニシンが描かれています。

ヨセフ・デ・ブライ《ニシンを称える静物》

私が17世紀オランダの市民だったら、家に飾るのはトローニーでも人物画よりは静止画かな。

フェルメールの絵画の真相

フェルメールと17世紀オランダ絵画展なので、メインはフェルメールの「窓辺で手紙を読む女」

この絵の後ろの壁に、キューピットが描かれていたというのです。
小さな画中画を想像していたら、思っていたより大きな画中画で驚きました。
言われてみると、修復前から後ろの壁に何だか分からない黒い縁が見えますね。

キューピッドが塗りつぶされていることは1979年のX線調査の時から分かっていたようなのですが、フェルメール自身が塗りつぶしたと思われたのでそのままにしてありました。
しかし、その後の調査で、キューピッドを塗りつぶしたのはフェルメールではないことが分かったのです。
キューピッドが描かれた部分と塗りつぶした絵具の間に埃や汚れの層があることや、キューピッドが時間の経過に伴う劣化でひび割れを起こした後に塗りつぶした絵具が塗られていることから、フェルメールの死後に何者かによって塗りつぶされたと判断されました。
2017年から表面のニスを綿棒で剥いだり、キューピッドを塗りつぶした絵具を顕微鏡で確認しながらそぎ落としたりという作業が始まり、2021年にようやく修復が完了しました。

フェルメールは生前から有名だったわけではなく、ドレスデン国立古典絵画館に納入された時にはこの作品はレンブラントのものだとされていました。
よりレンブラント風にするために納入した人がキューピッドを塗りつぶした、という説もありますが、真相は不明です。
ドレスデン国立古典絵画館(ドイツ)にこの絵画が入ったのは、1742年のことです。

画中画が仮面を踏むキューピッドだったことから、女が読んでいる手紙はラブレターだとされました。
キューピッドは誠実な愛の象徴だからです。
私のような捻くれた人間は、キューピッドの絵を部屋に飾ったからと言ってラブレターしか読めなくなるわけないだろと思うのですが、まあ、画家がわざわざ画中画にキューピッドを描いたなら、手紙はラブレターなのでしょう。

楽しい美術館めぐり

実は今まで美術館に行く習慣はなく、海外旅行の際に立ち寄るくらいで、東京都美術館には初めて行きました。
最近、本で「一流に触れることの大切さ」や「美術鑑賞しながら自由に発想することがビジネスにも役立つこと」を知って、行ってみました。

休日よりは空いているだろうと思って平日に有休をとって行きましたが、それなりに混んでいました。
老若男女、色んな人が興味を持つんですね。

当然と言えば当然で、キューピッドが描かれたフェルメールが展示されるのは、所蔵館のドレスデン以外では東京が初めて。
そんな凄いものが海外旅行に行かなくても見られるとあっては、人気も出ます。

今回は600円の音声ガイドもつけてみました。
フェルメールについてはビデオや解説も十分にありましたが、それ以外の絵画の説明は多くはなかったので、解説があってよかったと思います。
自由に想像できる部分も残しつつ、歴史的背景や画法の特徴を知れたことで、より楽しむことができました。

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