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【選択的夫婦別姓訴訟】歴史から考える「今」起きている事

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日本人同士が結婚する場合、夫婦のどちらかが姓を買えなければならないという法律があるせいで様々な不都合が発生していることについては、前の記事で書きました。

 なぜ夫婦別姓が求められるのか

なぜ選択的夫婦別姓が未だに認められないのかを知るために、現状の制度と夫婦別姓訴訟の歴史をまとめます。

現在の制度

日本人同士の結婚 日本人と外国人の結婚
婚姻 必ず改姓 選択的別姓
離婚 選択的別姓 選択的別姓

日本人同士が結婚する場合は、必ずどちらかが改姓しなければならないことになっています。そして、96%は女性が改姓しています。
独身でキャリアを積み、80歳の時に老人ハウスで結婚しようと思う人に出会ったとしても、法的に結婚するには改姓しなければなりません。

夫婦別姓訴訟の歴史

江戸時代から明治維新後

江戸時代には、そもそも庶民には姓を名乗ることが禁じられていました。庶民でも「家名」を姓のように使っている場合はありましたが、公式なものではなかったようです。
武士には公式に姓がありましたが、その時代は女性が男性に「嫁ぐ」文化で、家名を継げるのは男性だけです。嫁は結婚しても父方の姓を名乗るか、単に「〇〇の妻」とか「女房」とか書くのが通常だったようです。
よって、江戸時代は夫婦別姓でした。
明治維新後、平民にも氏を名乗ることが許されましたが、江戸時代の伝統に従って夫婦別姓でした。

1898年、ドイツを参考に明治民法が完成すると、夫婦同姓が定められました。
家父長制の家制度を導入し、「妻は婚姻によって夫の家に入る」としたためです。娘は父のもの、妻は夫のものなので、結婚も両性の同意だけではできず、父と夫によって決められます。
もちろん、結婚後は必ず夫の姓を採用します。

戦後の民法と初めての選択的夫婦別姓訴訟

1947年、家父長制の家制度が廃止され、両性の同意のみでの婚姻が許され、結婚後に妻の姓を採用することもできるようになりました。しかし、夫婦同姓の規定はそのまま残ります。
戦争が終わったのが1945年8月なので、大急ぎで民法を変えたことになります。そこで、1955年には夫婦別姓を認めるべきか、という議論も始まり、1975年には選択的夫婦別姓を求める初めての請願が提出されました。
その後も何度も夫婦別姓を求める審議が行われています。

1989年の事例

事例

1989年6月23日、岐阜家裁
婚姻届に婚姻後の氏として夫婦それぞれの姓を記入したところ、市長が受理を拒否

主張

憲法13条(個人の尊重)に反する:
婚姻後、夫婦のいずれかに氏の変更を強制しているので、氏を保持する権利を侵害している。

棄却理由

・夫婦同姓は家庭の一体感を高めるから。
・第三者に対して夫婦であることを示すのが容易になるから。
・夫婦同姓を定める民法750条は、国民感情と社会的慣習を根拠として制定されているので、現在においても合理的で、違憲ではない。

2013年の事例

事例

2013年5月29日、東京地裁
夫婦別姓を認めていない民法の規定は憲法違反だとして、東京、富山、京都在住の男女が提訴。
夫婦別姓の法改正を怠り精神的苦痛を受けたとして、国に対して総額600万円の損害賠償を求めた。
一審・東京地裁判決(2013年)、二審・東京高裁判決(2014年)、最高裁判決(2015年)で全て認められなかった。

主張

家族、結婚生活の意識や実態が変化し、夫婦同姓を強制する根拠が失われた。
憲法24条(婚姻時の男女平等)と憲法14条(法の下の平等)に反する。

棄却理由

社会通念上、夫婦別姓の導入が不可欠と認められるまでには至っていない。
憲法24条:
夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗る権利が憲法上保障されているとは言えない。
憲法14条:
夫婦どちらかの姓を名乗れば良いので、夫の姓を名乗るように強制している訳ではない。性別による差別ではない。

憲法24条:
(1)婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
(2)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

確かに、夫婦同姓は「夫婦どちらかの姓」を名乗れと言っているだけなので、男女差別ではありません。ただ、夫婦どちらかが改姓したことで著しい損害を負っているなら、それは憲法24条2項、結婚後の両性の本質的平等に反していると言えそうです。
2015年の最高裁でこの路線が絶たれたのは、かなりの後退と言えるかもしれません。

国連の改善勧告

夫婦別姓を認めない日本の民法規定について、国連は差別的だと2003年に廃止を求めました。2009年には再勧告、2016年には3度目の是正勧告をしています。

夫婦どちらかの姓を名乗ればよく、夫の姓を強制されている訳ではないとは言え、96%が夫の姓を選択し、夫婦別姓を訴えても認められないとなれば、実質的には女性差別だろ、というのが国連のスタンスのようです。
夫婦同姓を義務付けているのは世界を見ても日本とジャマイカくらい。

上記、2013年の事例では最高裁でも夫婦同姓が合憲判断されましたが、その時の裁判官は15人中女性が3人。女性裁判官3人は全員違憲としていました。世界に男尊女卑の国だと言われても不思議ではありませんね。

2018年の事例

事例

2019年3月25日、東京地裁
妻の姓を選択したサイボウズ社長・青野氏が、夫婦同姓を強制するのは様々な損害が出ているとして解決を求めた。
青野氏は、会社では旧姓を通称として名乗っているため、戸籍上の名前と通称の2つの名前を使い分けるのが大変だと主張している。(具体的な不都合の内容はこちらの記事へ)
第一審は敗訴。

主張

夫婦別姓が法律上認められていないことで多くの経済的不利益、精神的苦痛、日常生活における不便とリスク、国家的な損失が生じている。
①2013年の事例通り、民法の夫婦同姓は合憲かもしれない。ただ、呼称上の氏(通称としての旧姓)が法的に認められないのはおかしい。
②日本人と外国人が結婚する場合は夫婦別姓が認められるのに、日本人同士では認められないのは法の下の平等に反しており、法の欠缺だ。

棄却理由

①民法を変えずに戸籍法を変えるのは法体系に反する。法的に2つの名前を認めるのは混乱する。
②日本人と外国人、婚姻と離婚とでは前提条件が違うので、それを同列に論じるのはおかしい。

①に関して

戸籍謄本には1つの名前しか登録できないので、呼称上の氏=戸籍上の氏です。民法上の氏は、民法で定められた通りに変動する氏。
2013年の事例までは、この民法上の氏を変動しなくても良いようにしようと訴訟を起こしていた訳ですが、どうにもそれが難しそうなので、「民法上は姓を変えてもいいから、戸籍は旧姓のままにさせてくれ」と主張を変えたのです。元々目指していた夫婦別姓とは形が違いますが、通称(旧姓)を法的に認めてもらえれば公的文書の氏名変更などの面倒な手続きは不要になります。
しかし、「民法を変えずに戸籍法を変えるのは法体系に反する」と反論されました。

②に関して

元になるのは、現在の制度を表すこの表です。

日本人同士の結婚 日本人と外国人の結婚
婚姻 必ず改姓 選択的別姓
離婚 選択的別姓 選択的別姓
  • 外国人と結婚した場合は夫婦別姓が認められるのに日本人同士では認められないのは法の下の平等に反している。

  • 離婚後に旧姓に戻さなければならないのは日常生活に支障をきたすとして夫婦別姓を認めているのに、結婚時に姓を変えるのは日常生活に支障をきたすと認められないのはおかしい。

というのが青野氏の主張だったのですが、「前提条件が違う。外国人と離婚時には、夫婦同姓を定める民法750条が適用されない」と反論され、棄却されました。

これに対し青野氏は、「論理的に考えれば違憲なのに、私たちの主張は見事にスルーされた」として高裁、最高裁に進む予定です。

まとめ

ここまで選択的夫婦別姓訴訟の流れを追ってきましたが、完全な男尊女卑だった家父長制の時代から、戦後慌てて改正したような民法がなぜ未だに使われているのかが分からない・・・。青野氏が言うように、裁判所が「論理的な主張をスルーしている」ように見えてしまいます。国連にも勧告されているという事で、このままでは世界に日本は女性差別の国ですと恥を晒しているようなもの。
本当に別姓にするかどうかは各カップルが決めれば良いでしょうが、それを選択する権利は与えられるべきなのではないでしょうか。

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