綺麗な海、暖かな気候、穏やかな島人。
基本的にはリゾート地のイメージで、政治的には米軍基地問題がある、くらいの印象だった沖縄。
思えば、小学校の社会の教科書に載っていた人口統計データを見た時から、沖縄の異常性が気になっていた。
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データで見る沖縄 -本当に貧困なのかー
地方でで人口減少(過疎化)が進む中、沖縄の人口は増えている。
東京周辺など、都市部には転入してくる人が多いので人口が増えるのは分かる。
が、沖縄の人口増加率は東京よりも高い。
皆がこぞってリゾート地での生活に憧れて沖縄に移住したとでも言うのか?
以下のグラフを見ると、沖縄は日本で一番少子高齢化が進んでいない地域だと言うことが分かる。
引退した人が沖縄での隠居生活に憧れて移住しているわけではない。
沖縄ではちゃんと子供が生まれているということだ。
誰が生んでいるのか。
当たり前と言えば当たり前だが、出生率が高いのだから若い女性が生んでいる。
途中のデータは飛ばしたが、沖縄の第1子出産年齢は47都道府県で最も若い。
一般的に、第一子出産年齢が遅くなり、出生率が下がるのは、女性がキャリアと育児の両立が難しいと考えて出産を遅らせるからだ。
沖縄の女性はキャリア形成しないのか?
47都道府県最下位の大学進学率と、最高位の非正規雇用者率。
もう分かる通り、貧困地域だから出生率が高くなるのだ。
若くして子供ができるので、大学進学率が低い。
大学進学率が低いので、キャリア形成できず、一人当たりの所得が伸び悩む。
ついでに離婚率も全国1位なので、一人親世帯出現率も全国1位。
県全体で賃金平均が低いので離婚した片親から十分な養育費をもらうことは難しく、子供がいる状態で働くことになるので非正規雇用者が増える。
世帯所得が低いのでその子供の大学進学率も低く、また若くして子供を産む。
貧困が貧困を生む構造になっている。
これに対して政府は対症療法しか取れていない。
給食を無料にしたり、給付型の奨学金を出したりといったことだ。
しかし、資金援助をするだけでは貧困世帯が援助に頼るようになるだけで、本質的な問題は解決しない。
沖縄の貧困の原因はもっと根深い部分にある。
沖縄から貧困がなくならない本当の理由
樋口耕太郎の『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』では、沖縄の貧困の原因を深堀していた。
米軍基地集中の見返りとしての優遇措置に依存し、衰退する経済
日本国土の0.6%にしかならない沖縄に、米軍専用施設の70%が存在する。
沖縄は米軍基地によって経済が潤っているなんて言わないが、実際はどうか。
沖縄には、米軍基地集中の見返りとしての優遇措置が多数存在する。
その一つが酒税軽減制度。
沖縄で生産される酒類について、泡盛は35%、ビール等は20%の酒税減免措置が続いている。
本土の大手メーカーより安く販売できるので、オリオンビールはシェアを伸ばしやすい環境にあった。
しかし、オリオンビールの事業力は伸びなかった。沖縄でどれだけのシェアを獲得しても、本土で勝負することができない。
経営陣は、事業力の強化ではなく、酒税軽減措置の延長のための政治的根回しに力を入れていた。
商品開発をするより、酒税軽減措置の方が大きく利益率に貢献するのだから、当然だ。
結果的に、48年続いた酒税軽減措置がそろそろ廃止されるのではないかとの見通しもあり、2019年には野村HDとカーライル・グループに買収された。
資金援助、対症療法では経済成長につながらないという例がここにも表れている。
出る杭を潰すムラ社会
沖縄には、昇進を断る人が一定数いるそうだ。
勿論全員ではないが、本土よりかなり多い割合で存在すると筆者は語る。
なぜ昇進したくないのか。
沖縄には、問題を指摘して組織に変化を起こす人を加害者扱いする文化、出る杭を潰す文化があるらしい。
また、消費者としても変化を求めていない。
- 小さな島で商店同士の競争が少ないので、他の店に浮気するといつもの店に冷たくされるようになる。
- ほとんどの家庭が「沖縄の定番」の商品を買う。(他の物を買っていると浮く)
- 同級生の集まりで知り合いのレストランに顔を出さないと、同級生一同さらにはその知り合いにまで仲間外れにされる。
- 組織内の多くの人が現状維持を望むので、イノベーションを起こしそうな人は無視される。
- クラクションを鳴らされるような行為をした人ではなく、クラクションを鳴らした人が加害者だとみなされる。
- テスト前に勉強していると真面目な奴だと嘲笑される。
そんな文化のために、昇進して責任のある立場になっても部下に指摘することはできないし、周りから浮いて生きにくくなるだけだ。
企業からすれば、従業員が現状維持を望むのだから、改革する合理性がない。
昇進したがらないのだから、昇給させる必要もない。
さらには、他社より良い給料を出してしまうと他社に妨害されることまである。
沖縄が貧困であることに、合理性が生まれてしまっている。
貧困の沖縄は、世界から見た日本
沖縄のいわゆるムラ社会的な構造が貧困を招いているというのがこの本の主張だが、この特徴は世界から見ると日本全体にも当てはまるのではないか。
私は高校・大学時代を東京で過ごし、外資系企業に勤めているので、周囲にはイノベーティブな人もいた。
しかし、日本人の大半もやはり変化を望まない人が多いのではないか。
周りの目を気にして。できる人をやっかんで。自分の立場が危うくならないように優秀な人を潰していく。
沖縄に限らず、日本全体に一定数そんな人がいるだろう。
そんな人たちがいれば、経済が衰退していき、生活困窮者が増えるのも当然ではないか。
自尊心の低さが貧困の原因
周りの目を気にして変化を起こせない原因は、自尊心の低さであるという説には、とても納得がいく。
他人にどう思われても、自分は自分であるだけで生きている価値があると思えるくらいに自分を愛せれば、変化を恐れる理由などない。
カッコ悪くても、間違えても、自分が無価値だとは思わない。
間違えたら正せば良いと思えば、次のチャレンジができる。
自尊心がない人は、自分の立場を守るために出る杭を潰し、現状維持を望む。
そのため、自分より優秀でない人材しか採用、育成しないなどの行動につながる。
イノベーションを起こしそうな優秀な人を助けるなんてことはしない。
貧困の原因を個々人の自尊心の問題にしてしまっては対策の取りようもないが、自分を大切にすることがイノベーションを生む第一歩となり、他人を許容し認め合える脱・ムラ社会に繋がるというのは、納得感のある結論だろう。