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『正欲』の感想。想像できる範囲の多様性。それでも理解しようとする意味。

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衝撃が強すぎた、、、

今回は朝井リョウさんの『正欲』の感想です。

読み始めた時は、1Q84のような視点がコロコロ変わる感じが嫌いだなーというくらいの感想だった。
全然関係なさそうな複数の登場人物がどこかで繋がるんだろうなと楽しみにはしつつ、視点は固定してくれた方が没頭できるのにと思っていた。

でも後半になるにつれて、説明し難い苦しさのようなものが襲ってきた。
正解がない問に対する答えを探しているような。
これから提議されるであろう問題に対する答えを、自分が持っていない不安感のようなもの。

内容のあらすじ

寺井啓喜:

社会正義の実現を目指す検事。専業主婦の由美と息子の泰希と暮らす。
ローンで一軒家を立て、息子を私立の小学校に入れるというエリート人生だったが、息子が不登校になってしまう。
今の時代に学校なんて古い、Youtubeで生きていくと宣言する泰希に対して、検事として普通のルートを外れた人間がいかに簡単に一線を飛び越えるかを知っているから認められないと思っている。

神戸八重子:

男性不審の女子大生。
文化祭実行委員として、ルッキズムを助長するミス・ミスターコンテストを廃止して多様性を打ち出すイベントを主催。
イベントを通して、自分だけかもしれない悩みを共有できる人と繋がる体制津佐を打ち出す。

桐生夏月:

性的魅力を感じる対象が、水。
その性癖がバレないように気を使って生きてきたが、同じ性癖を持つ佐々木佳道と籍を入れて同居を始めたことで安心感を得る。

諸橋大也:

性的魅力を感じる対象が、水。八重子と同じ大学生。
顔が端正であるために女性からの「粘り気のある視線」を受けるが、桐生夏月や佐々木佳道と同じようなバレてはいけない不安を感じている。

感想

LGBTQとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれた時の性別と自認する性別が一致しない人)、クエスチョニング(自分自身のセクシュアリティを決められない、分からない、または決めない人)のこと。
性的マイノリティーを指しているのだが、「性的対象が水」とか、「男性愛者だけど男性不審」というような人は含まれない。

「お前らが想像すらできないような人間はこの世界にいっぱいいる。理解されることを望んでない人間だっていっぱいいる。俺は自分のこと、気持ち悪いって思う人がいて当然だって思ってる」

諸橋大也

LGBTQなんて、マジョリティーの異性愛者が理解できる性的マイノリティーの一部だけだというわけだ。
想像できることしか認知できないのだから。

私は、LGBTQを差別したいと思ったことはない。
理解したいし、色んな人がいるということを受け入れて生きていきたい、人として正しくありたいと思っていた。

「自分はあくまで理解する側だって思ってる奴らが一番嫌いだ」

諸橋大也

LGBTQの人が、「結婚しないの?」などと聞かれるのが苦痛だったというのは聞いたことがあったから、そのような話題は自分からは出さないようにしている。
仕事だけしている分には、まったくもってそれで成立する。
でもそれはそれで、他人に全く興味を示さず生きるのも面白みがない。

別に、LGBTQだと告白されても、「水が好きだ」と告白されても、好きにしたら良いと思っている。
他人に迷惑をかけないなら、好きなように生きれば良い。
だから、共有して欲しいと思っていた。自分の人生について。
人間として、別の人間の人生に興味を持ってしまうのは、悪いことなのだろうか。

それすらも、マジョリティーの、「理解する側」の発想なのだろうか。

ーーーなんか人間って、ずっとセックスの話してるよね。
それはきっと、誰にも本当の正解がわからないからだ。
(中略)まとも側の岸にいたいのならば、多数決で勝ち続けなければならない。そうじゃないと、お前はまともじゃないのかと覗き込まれ、排除されてしまう。

佐々木佳道

「美味しいもの食べた」とか、「よく眠れた」ならすぐに共有できる。
でも性欲を満たしているかどうかだけは大っぴらに確認できないから。
自分が”普通”かどうかを確認したいがために、私は他人の人生を気にしている?

私は違う、はず。皆それぞれ自分の人生を好きに生きたら良い。
不合理なこと以外は何でも許される社会であるべきだと思っているし、そんな社会の実現に貢献したいと思っている。
私が貢献したい社会正義は、啓喜とは違うはず。

他人とは違う嗜好があるからって、隔離しなければならないとは思わない。
皆が隠れてAVを見てるのと同じレベルのことは、やっても良いはず。
でも被写体が性的に見られていると理解していない場合は、本当に問題ないんだろうか。

「そもそもどうやって判断できるんだよ、その感情が性的かなんて」

諸橋大也

マジョリティはマジョリティが性的だと思うものしか規制しない。
でもたまに、全然性的な意図がなさそうな動画なのに、性的だ、興奮すると切り抜き動画にする人いるよね。
それが許されるなら、マイノリティの嗜好の人が被写体が意図していない内容でも自分の嗜好を満たせたなら、それで良いんじゃないか?
相手が明確に嫌がっていない限りは。

「感情は自由っていうのは、私もそう思う。だからこそ、その自由を守るためにはどうすればいいのか、一緒にもっと考えたい」

神戸八重子

マイノリティーの助けになれるのは、結局はマイノリティーだ。
桐生夏月は、佐々木佳道と出会えたから救われた。
佐々木佳道も同じで、時間と悩みを共有できる人を見つけたから、明日も生きようと思えるようになった。
そして二人は、恋愛感情がなくても一緒にいたいと思えるような関係になれた。恋愛感情があったはずの、子供までいる啓喜と由美より強い繋がり。

でもマイノリティーなんだから、同じマイノリティーを見つけるのはいくらSNSが発達していても難しいわけで。
そんなマイノリティーとも感情の自由を守るためにどうすれば良いのか、一緒に考えられる人に、私はなりたい。

「私は私と考え方の違うあなたともっと話したい。全然違う頭の中の自由をお互いに守るために、もっと繋がって、もっと一緒に考えたい」

神戸八重子

大也はまだ、八重子がウザいと思っているんだろうか。

自分が取るべき態度の答えを見つけられたような、まだ分からないような。
とにかく考えさせられる、心に残る作品だった。

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